睡眠と風邪:ウイルスチャレンジ研究が示すこと
健康なボランティアに意図的にかぜのウイルスを投与したところ、事前の睡眠が短かった人ほど発症が多くなりました。研究が測ったこと、数字の不確かさ、検証されていないこと。
睡眠と風邪についての助言の多くは、もっともらしい推測に基づいています。疲れている人のほうが病気になりやすい、というものです。いくつかの研究はさらに踏み込み、医学では珍しい方法でそれを検証しました。健康なボランティアの鼻にかぜのウイルスを入れ、隔離したうえで、実際に誰が病気になるかを調べたのです。ボランティアがそれまでの睡眠をどう過ごしていたかは、あらかじめ記録されていました。
これは情報提供を目的とした内容であり、医学的な助言ではありません。症状が強い場合、悪化している場合、あるいは良くならない場合は、医師に相談すべきことです。繰り返し起こる睡眠の問題も同様です。
研究デザイン:先に睡眠、次にウイルス
ボランティアにわざと感染させるというのは奇妙に聞こえますが、それこそがこのエビデンスを明確にしている点でもあります。「誰が風邪をひくか」を調べる通常の研究では、人々は異なる時期に、異なる量で、異なる場所でウイルスに出会います。ここでは全員が同じライノウイルス(一般的なかぜのウイルス)を点鼻薬として投与されたので、曝露は全員で同じでした。研究者は次に「臨床的な風邪」を観察しました。これは、感染が確認され、かつ客観的な病気の徴候があることを指し、ボランティアが具合が悪いと言っただけでは該当しません。
同じ研究グループがこのデザインを6年の間隔をあけて2回行い、そのたびに睡眠の測り方を変えました。この違いは重要です。
研究1:2週間の睡眠日誌
2009年の研究では、21〜55歳の健康な成人153人が、14日間毎日の睡眠を報告しました。報告したのは睡眠時間と睡眠効率で、睡眠効率とは、ベッドにいる時間のうち実際に眠っている時間の割合です。その後、隔離されてウイルスを投与されました(Cohen et al., 2009)。
平均7時間未満だった人は、平均8時間以上だった人に比べて、風邪を発症する可能性が2.94倍でした(95%信頼区間 1.18〜7.30)。睡眠効率が92%未満の人は、98%以上の人に比べて5.50倍でした(95%信頼区間 2.08〜14.48)。著者らは、もともとの抗体、年齢などの人口統計、季節、体格、社会経済的状況、心理的な変数、健康習慣で説明できるかどうかを調べました。説明できませんでした。
見過ごしやすい点が一つあります。どれだけ休めたと感じていたかは、誰が風邪をひいたかとは関連していませんでした。自分は休めたと評価した日の割合は、研究者に何も教えず、教えたのは時間数と効率のほうでした。
研究2:記憶の代わりに手首のセンサー
研究1の弱点は、自己申告に頼っていたことで、人は自分の夜を正確に判断するのが得意ではありません。2015年の研究はそこに対処しました。研究者は、18〜55歳の健康な成人164人に、手首のアクチグラフ(眠っている時間を推定する動きのセンサー)を着けてもらい、7日連続で睡眠日誌をつけてもらいました。その後に隔離、ライノウイルスの点鼻、5日間のモニタリングが続きました(Prather et al., 2015)。
1晩に7時間より長く眠っていた人と比べて、臨床的な風邪のオッズは次のとおりでした。
- 5時間未満:4.50倍高い(95%信頼区間 1.08〜18.69)
- 5〜6時間:4.24倍高い(95%信頼区間 1.08〜16.71)
- 6〜7時間:1.66倍高い(95%信頼区間 0.40〜6.95)。著者らはこれをより大きなリスクとは見なしませんでした
この推定値は、チャレンジ前の抗体、人口統計、季節、体格指数、心理的な変数、健康習慣を調整したあとも変わりませんでした。
数字をどこまで信頼できるか
括弧内の範囲である信頼区間を見てください。5時間未満の区間は1.08から18.69に及びます。平易に言えば、データは、ほとんど効果がない場合とも、見出しの数字の約4倍も大きい効果の場合とも矛盾しません。164人ではそうなります。方向は二つの研究で一貫しており、個々の比よりも、この方向のほうが注目に値します。
6〜7時間の群については、別に述べておく必要があります。その区間(0.40〜6.95)は「差なし」を十分に含み、同時に大きな差も含んでいます。この研究では判断できませんでした。したがって、「6時間なら問題ない」も「6時間は危険だ」も、このデータが主張していることではありません。
二つの研究には、未解決の違いもあります。日誌の研究では、睡眠効率が目立ちました。アクチグラフの研究では、睡眠の断片化、つまり夜がどれだけ途切れていたかは、かかりやすさとは無関係でした。センサーと日誌は、同じ名前のもとで別のものを測っているのかもしれません。そのどちらが、免疫系が反応するものにより近いのかは、決着していません。
最後に、これらの研究は、人々がもともと持っていた睡眠習慣を観察したものです。5時間眠るか8時間眠るかを割り当てられた人はいません。もっと眠れば誰かのリスクが下がるかどうかは検証されておらず、ここには「風邪を避けるにはX時間眠る」といったルールを支持するものは何もありません。睡眠が短い人は、研究者が測らなかった、あるいは測れなかった点でも異なっている可能性があります。
二つ目のエビデンス:ワクチン
短い睡眠が免疫系の反応を変えるのなら、風邪以外にも現れるはずです。2012年の研究は、40〜60歳の健康な成人125人を、標準的な3回接種のB型肝炎ワクチンの全期間にわたって追跡し、アクチグラフと電子日誌で睡眠を測定しました(Prather et al., 2012)。
アクチグラフで測った睡眠が短いことは、二次的な抗体反応が低いことと関連していました。また、最終接種の6か月後に臨床的に防御されている可能性が低いことにも関連していました。睡眠効率と主観的な睡眠の質は、有意な予測因子ではありませんでした。著者らは、短い睡眠は抗体反応に「悪影響を及ぼす可能性がある」(原文:"may negatively affect"、日本語訳は本稿)と書いています。
ここでのエビデンスの種類は観察研究です。健康な人、ワクチン、そして並行して測られた睡眠です。これは、ある年齢層の、ある一つのワクチンについての知見であり、ワクチン接種についての指針ではありません。この記事にとって意味があるのは、これが、著者らが風邪の結果について示す説明の一つの候補だからです。短い睡眠が免疫反応の一部を鈍らせるのなら、風邪の知見には拠りどころとなる仕組みがあることになります。これは辻褄の合う仮説であって、これらの風邪の研究で実証された経路ではありません。
矢印は逆向きにも向いている
ここまでは、睡眠が先で病気が後でした。この分野のレビューは、双方向の関係を述べています。睡眠は自然免疫と獲得免疫に影響し、感染リスクの低さと関連している一方で、感染による免疫の活性化は睡眠を変えます(Besedovsky et al., 2019)。病気のときは睡眠が長く深くなることがありますが、睡眠が妨げられることもあります。このレビューはさらに、睡眠不足が長く続くと、慢性的な軽度の炎症につながりうると述べています。
ご自身の数字を見る方にとって、これには実際的な読み方があります。たとえば、10月に睡眠が荒れた週があり、2週目に風邪をひいたとします。ウイルスチャレンジのデザインは、睡眠がウイルスの投与前に測られているため、この混同を排除しています。ご自身の生活には、そうした保証はありません。調子の悪い期間が病気の前にあったのかもしれませんし、すでに始まっていた病気の最初の部分だったのかもしれません。具合が悪いと感じた日から振り返っても、たいていはどちらかわかりません。
ご自身のデータにとっての意味
ここから目標の数字が得られるわけではなく、スコアが得られるわけでもありません。いつもより眠れないことは宣告ではなく、よく眠れた夜は盾ではありません。これらの研究が差し出しているのは、一つの季節を通してご自身のパターンに関心を持つ理由です。
MeteoHealthは、Apple ヘルスケアから睡眠、HRV、安静時心拍数を読み取ります。屋外のその土地の天気(気圧、気温、相対湿度、風速、UV指数)を症状の記録と並べて保存し、ピアソン相関とANOVAを使って、ご自身の記録の中にある関係を探します。その際、偶然のパターンが発見のように見えにくくなるよう、偽発見率の補正を行います。アプリが追跡する固定の症状は9つで、疲労、眠気、不眠が含まれます。咳、のどの痛み、発熱の項目はなく、感染症を検出、診断、予測することはありません。
したがって、現実的な使い方は控えめなものです。数週間にわたって、ご自身の睡眠の推移を、疲労を記録した日と並べて見て、ご自身の場合に両者が一緒に動くかどうかを確かめられます。それは観察であってリスクスコアではなく、推移と病気が重なったときには、上のレビューが、出来事の順序は思い込んでいるものとは違うかもしれない、と思い出させてくれます。良くならない睡眠不足が続く場合や、症状を伴う場合は、記録を持って医師に相談してください。冬の記事では季節の天気の側面を扱い、睡眠負債では、1週間の要約として睡眠時間の数字が一つだけでは弱い理由を扱っています。
- Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold — Prather et al., Sleep, 2015.
- Sleep habits and susceptibility to the common cold — Cohen et al., Archives of Internal Medicine, 2009.
- Sleep and antibody response to hepatitis B vaccination — Prather et al., Sleep, 2012.
- The Sleep-Immune Crosstalk in Health and Disease — Besedovsky et al., Physiological Reviews, 2019.